研究コラム〈スケート文化が根ざす場所〉

序文 (2020.4.1)

連載〈スケート文化が根ざす場所〉をはじめるにあたり

 スケートリンクとは、人間が「滑る(滑走)」という身体の運動能力を実践することができる氷のフィールドである。そしてこの「滑る(滑走)」という運動能力は、陸上、水中(水上)、空中はもとより雪上でさえも決して実現させることができない氷上ならではの身体パフォーマンスと言えるだろう。それゆえに氷上にはあらゆるスポーツ文化が根ざしている。氷上スポーツとしては冬季オリンピックの正式競技に限定しても、フィギュアスケート、スピードスケート、ショートトラックスピードスケート、アイスホッケー、カーリングが挙げられ、多岐にわたる競技がスケートリンクで実施されていることがわかる。ちなみに冬季オリンピックの正式競技が全15競技であることに鑑みると、スケートリンクはその三分の一の競技を支えていることになる。また競技のみならず、ある時にはアイスショーの舞台として、またある時にはレジャーやレクリエーション活動を実施する空間として、スケートリンクは今日様々に活用されている施設なのである。

 ところが、実は今、国内においてそのスケートリンクに危機が生じている。まずは、かつて文部科学省が実施していた「体育・スポーツ施設現況調査」および「社会教育調査」によって公表されているスケートリンクの施設数を年代別に整理した【図1】をご覧いただきたい。この【図1】を参照すれば、スケートリンクの数が1980年代をピークに減少の一途を辿っていることが一目瞭然となるだろう。そしてそれを裏付けるかのように、日本生産性本部の『レジャー白書』(2004年版および2015年版)に拠ると、スケート場とそこで展開されているスクール活動の市場も1992年に240億円規模と隆盛していたものが、2014年には60億円規模にまで急激に縮小してきていることが明らかとなった。また【表1】は、地域別に見た全国のスケートリンクの設置状況を一覧化したものだが、通年運営のスケートリンクに関しては、大都市圏内に偏在してしまっている状態であることが確認できる。

 このように誰もがアクセスすることのできる身近なデータを参照するだけでも、スケートリンクをめぐる困難な状況が、次々に浮かび上がってくるのである。これから先この状況下においても、果たして氷上に根ざすスケート文化は豊かに発展し、そして未来へと継承されていくのであろうか—— 。
 こうした問題を背景として本連載〈スケート文化が根ざす場所〉では、第一にスケートリンクを支えている運営現場を多角的な観点から分析し、現状を理解することに努めていきたい。その上でスケート環境が直面している危機的な状況の打開に向けて、未来を見据えたスケートリンクの持続可能性(サステナビリティー)を考察していくことが、本連載の最終目標となる。


© 町田 樹

© 町田 樹

【参考文献】

  1. 公益財団法人日本スケート連盟「全国スケートリンク」, available at https://skatingjapan.or.jp/rink/(2020年4月1日最終確認)
  2. 日本生産性本部『レジャー白書』生産性出版, 2004.
  3. 日本生産性本部『レジャー白書』生産性出版, 2015.
  4. 文部科学省「社会教育調査」, available at https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm(2020年4月1日最終確認)
  5. 文部科学省「社会教育調査」, available at https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm(2020年4月1日最終確認)
  6. スポーツ庁「体育・スポーツ施設現況調査」, available at https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/chousa04/shisetsu/1368149.htm(2020年4月1日最終確認)

※本コラムの文章・図表を引用もしくは典拠とする際は、以下のように出典を明記してください。

町田樹「序文 —— 連載〈スケート文化が根ざす場所〉をはじめるにあたり」『研究コラム —— 汽水域の哲学』町田樹公式ウェブサイト, 2020年4月1日, available at http://tatsuki-machida.com/column/000_foreword.html

町田樹(2020 Apr.)「序文 —— 連載〈スケート文化が根ざす場所〉をはじめるにあたり」『町田樹公式ウェブサイト研究コラム —— 汽水域の哲学』 available at http://tatsuki-machida.com/column/000_foreword.html