ダブル・ビル —— そこに音楽がある限り

2018 Autumn:Double Bill:as long as there’s music

 今作《そこに音楽がある限り》では、関連性はあるもののそれぞれが独立した異なる二つの作品を、立て続けに上演するダブル・ビル形式(double bill)でお届けします。バレエをはじめとするダンスの領域において、ダブル・ビルもしくはトリプル・ビルといった上演スタイルは決して珍しくはないですが、フィギュアスケート界においては新しい試みになります。


 第一作品は、シューベルト(Franz Schubert, 1797-1828)のピアノ曲として最もポピュラーな一作である「楽興の時 第3番」(1823-1828年)。この曲をポーランド出身の作曲家であるゴドフスキー(Leopold Godowsky, 1870-1938)が編曲した楽曲を使用しています。原曲以上により豊かな音が和声として追加されており、いかにも東欧的な民族舞踊を連想させる編曲となっています。本フィギュアスケート作品では、国立音楽大学大学院教授・今井顕先生による文字通り「踊り心」をくすぐるようなピアノ演奏に導かれて、そのリズミカルな曲調をステップやターンを基調としたスケーティングで体現しています。
 第二作品はエルガー作曲の「愛の挨拶」(1888年)。この曲の初版の楽譜タイトルは、フランス語で、”Salut d’amour”となっています。“Salut”とは、親しい友人の間で交わされる出会いと別れの際に用いられる挨拶です。出会いがあれば、必ず別れが訪れる —— そのことを痛切に感じさせる五嶋みどりさんのヴァイオリンの音色に寄り添うように、「愛惜」をテーマとして、旋律の微細な抑揚を氷上に描いています。
 このようにダブル・ビル形式で上演することによって、それぞれピアノとヴァイオリンが奏でる二つの楽曲を、特色の異なるスケーティングスタイルで表現しています。二つを結ぶのは「踊り心」。その付け合わせの妙も、楽しんで頂けたらと思います。


 これまで制作陣Atelier t.e.r.mは、《継ぐ者》(2015年)から《人間の条件》(2018年)に至るまで、新機軸を盛り込んだフィギュアスケート作品を意欲的に制作してきました。しかしながら一方で、これらの作品の根底に一貫して流れている哲学はただひとつ —— 「素晴らしい音楽を氷上で十全に表現したい」という単純明快な想いがあるだけなのです。
 はるか昔、氷の上を滑走した人々が「音楽とともに滑りたい」と夢想してからというもの、ありとあらゆる音楽が氷上で表現されてきました。きっと、こうした氷上における音楽の身体表現は、これから先も永続していくに違いありません。
 そこに音楽がある限り —— 「フィギュアスケート」は、氷上で踊る文化であり続けることでしょう。

第一作品《楽興の時 第3番》

Art Direction (監修):Atelier t.e.r.m

Choreography (振付):Tatsuki Machida (町田樹)

Costume Plan (衣裳原案):Atelier t.e.r.m

Music (音楽):Moments musicaux 3.f moll, D780, op.94
From Akira Imai plays Schubert[WWCC-7338, Live Notes, 1999年]

Composer (作曲):Franz Peter Schubert

Arrangement(編曲):Leopold Godowsky

Piano(演奏):Akira Imai(今井顕)

Music Editor (音楽編集):Keiichi Yano (矢野桂一)

Costume Support (衣裳協力):Yuki Shidara (設楽友紀)

Lighting Support(照明協力):TV Tokyo Art & Lighting, Inc.(株式会社 テレビ東京アート)


第二作品《愛の挨拶》

Art Direction (監修):Atelier t.e.r.m

Choreography (振付):Tatsuki Machida (町田樹)

Costume Plan (衣裳原案):Atelier t.e.r.m

Music (音楽):Salut d’amour
From Midori Encore![SICC 10009, Sony Music Japan, 1992年]

Composer (作曲):Edward William Elga

Violin(演奏):Midori Goto(五嶋みどり)

Piano(演奏):Robert McDonald

Music Editor (音楽編集):Keiichi Yano (矢野桂一)

Costume Support (衣裳協力):Yuki Shidara (設楽友紀)

Lighting Support(照明協力):TV Tokyo Art & Lighting, Inc.(株式会社 テレビ東京アート)